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IoTにおけるワイヤレス接続の選択肢 – 技術比較

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本シリーズ以前の記事で、あらゆるプロジェクトに適した万能なワイヤレス接続ソリューションは無いことをご説明しました。また、商工業分野でとりわけ多いIoTの用途について調査を行い、各用途における特に重要な特性と、適していると思われる技術をリストアップしました。

今回の記事では、さまざまなワイヤレス接続技術についてさらに詳しく分析し、商工業分野におけるIoTとして特に重要な特性の観点から比較を行います。

比較する技術は以下の通りです。

  • Bluetooth® 技術
  • Wi-Fi
  • IEEE 802.15.4ベースの技術(ThreadZigbee
  • Z-Wave
  • セルラー系の省電力広域ネットワーク技術(NB-IoTLTE-M
  • 非セルラー系の省電力広域ネットワーク技術(LoRaWAN、Sigfox)

各技術について、以下の特性の観点から比較を行います。

  • 通信距離
  • スループット
  • 消費電力
  • コスト
  • トポロジー

各技術の特性を比較する前に、それぞれの技術を簡単にご紹介しましょう。本記事では各技術について詳細な説明は行いません。

Bluetooth技術

定義

Bluetoothは、2.4 GHzのISMバンドで動作する低消費電力のワイヤレスソリューションです。Bluetooth技術は長年にわたり開発が進められており、今では様々なIoT分野に対応可能な通信距離と帯域幅、通信トポロジーを有しており、非常に柔軟性に富んだソリューションとなっています。

技術的な詳細

Bluetooth無線技術には、Bluetooth ClassicBluetooth LELow Energy)の2種類があります。Bluetooth ClassicBR/EDR)は当初からあるBluetooth無線技術で、現在でもオーディオストリーミングを始めとする配信用途で広く用いられています。一方、Bluetooth LEはこれまで、デバイス間でのデータ転送があまり頻繁に行われない低帯域幅の用途で多く使われてきました。Bluetooth LEは非常に低消費電力で知られており、スマートフォンやタブレット、パソコン等で幅広く普及しています。

Bluetooth LEは、ポイントツーポイント接続、スター、メッシュネットワーク、ブロードキャストのトポロジーでの動作に対応しています。では、ノードは中央のハブを介さずとも他のデバイスと直接つながることが可能です。これにより、オリジナルのソースノードからは範囲外となっていたノードにもデータや情報を中継可能で、広範囲のネットワークを確立できます。

主な用途

Bluetooth LEは、健康やフィットネス関連の製品、スマート照明システムリアルタイム位置情報システム、屋内ナビゲーションといった用途で特に広く普及しています。

Wi-Fi

定義

Wi-Fiは、IEEE 802.11規格に準拠したワイヤレスローカルエリアネットワーク(WLAN)の商標名です。最も一般的な動作帯域は2.4 GHzおよび5 GHzのISMバンドですが、それ以外の周波数帯も対象とするサービスも登場しています。

技術的な詳細

Wi-Fiには様々なバージョンがあります。近年Wi-Fi Allianceがバージョン番号制度を導入した結果、Wi-Fi 1(802.11b)、Wi-Fi 2(802.11a)、Wi-Fi 3(802.11g)、Wi-Fi 4(802.11n)、Wi-Fi 5(802.11ac)、Wi-Fi 6(802.11ax)にカテゴライズされています。  新しいバージョンでは通信距離が広がり、スループットが向上し、より幅広い用途に対応できるようになっています。

Wi-Fiのトポロジーで最も多く使われているのがスター型です。スター型では、ノード同士の通信は必ず中央のハブを介して行う必要があります。

主な用途

Wi-Fiは、大容量ファイルの転送や動画のストリーミングといった高帯域幅のデータ転送でよく使われています。

IoTにおいては、インターネットへ直接接続するデバイスでWi-Fiが最も一般的に使用されています。ですが基本的に省電力な技術ではなく、小型バッテリーで長時間駆動させるような用途やデバイスではあまり用いられていません。

IEEE 802.15.4ベースの技術(ThreadZigbee

定義

IEEE 802.15.4は、低速ワイヤレスパーソナルエリアネットワーク(LR-WPAN)のアクセス層です。 

技術的な詳細

ThreadZigbeeは、この仕様に基づいて構築された異なる技術です。いずれも電力消費が少なく、通信速度が低いのが特徴です。IEEE 802.15.4は、主に消費電力を低く抑えながら、低速で少量のデータをやりとりする用途で採用されています。

トポロジーはスター型にも対応していますが、最も多く使われているのはメッシュ型です。

主な用途

スマートホーム分野におけるワイヤレス制御および監視が最も一般的な用途となっています。

Z-Wave

定義

Z-Waveは当初、照明制御のためのプロトコルとして開発されました。その後、Z-Wave Allianceによって管理されるホームオートメーションのプロトコルへと進化しています。

技術的な詳細

Z-Waveは米国では908/915 MHz帯、欧州では868 MHz帯で動作する独自技術です。これは2.4 GHz帯のISMバンドとの干渉を避け、カバレッジを広げるための設計です。

主要なトポロジーはメッシュ型となっています。

主な用途

スマートホームで主に利用されています。

セルラー系の省電力広域ネットワーク技術(NB-IoTLTE-M)

定義

LTE-MLTE Cat-M1Long-Term Evolution for Machinesの略)とNB-IoTNarrowBand IoTの略)は、3GPP3rd Generation Partnership Project)が開発した、セルラー系のIoTソリューションの技術規格です。

他の5G技術と共存できるよう設計されており、5GIoTの長期戦略にとって不可欠な存在として位置づけられています。5Gは、第5世代の移動通信技術を包括的に表した用語で、2Gbps(将来的には100 Gbpsまで)の高速通信が約束されています。また、5Gによってレイテンシーは減少し、カバレッジも拡大します(ネットワークに同時接続できるデバイス数が増加します)。

技術的な詳細

LTE-MNB-IoTではいくつかの特性が異なっており、それぞれ別の用途に適しています。

NB-IoTは帯域幅が狭く、消費電力を抑えたいシンプルな用途に適しています。一方LTE-Mはデータレートが高く、リアルタイムな動作が求められるミッションクリティカルな用途に最適です。両者の主な違いは、通信速度(LTE-Mの方が速い)とレイテンシー(LTE-Mの方が少ない)となっています。

NB-IoTLTE-Mは、主にスター型のトポロジーで動くよう設計されています。

主な用途

NB-IoTの主な用途はスマート農業、スマートシティ、スマートメーターといった分野です。一方、LTE-Mは物流や医療機器のバックホール通信、車載等で主に使われています。

非セルラー系の省電力広域ネットワーク技術(LoRaWANSigfox)

定義

LoRaWANは、LoRa Allianceによって維持されているワイヤレスネットワークのオープンな規格です。LoRaWANは、Semtechという企業が開発した独自の変調形式、「LoRa」をもとに作られています。 

技術的な詳細

LoRaはネットワークスタックの下位層のみを、LoRaWANは上位層を定義します。LoRaWANは、LoRa上に構築されたプロトコルの1つです。

LoRaWANは、省電力広域ネットワーク(LPWAN)技術に分類され、省電力ながらデバイス間の長距離通信が可能となっています。

SigfoxもまたLPWAN技術です。こちらはフランス企業のSigfoxが提供する独自技術で、同社がSigfoxを提供する唯一のネットワーク事業者となっています。 

主な用途
LoRaWANは、電気や水道、ガス、駐車場のスマートメーターやサプライチェーンや物流分野における資産追跡といったスマートシティ分野でよく使われている技術です。Sigfoxもスマートシティ分野で人気の高い技術ですが、米国より欧州でより広く利用されています。

比較表

以下の表では、これまでご紹介したワイヤレス技術の比較を行っています。

本シリーズ記事では、今後さまざまな産業用ワイヤレス技術に注目していきます。用途ごとの特に重要な特性をリストアップし、最も適した技術がどれかを分析します。