Bluetooth® 位置情報サービスは昨年、渡航制限や現場の据付工事への制約などから市場の成長に遅延が生じました。しかし、「Bluetooth市場動向 2021 」に示されている通り、市場の成長は2021年の間に回復し、今後5年間で550,000もの機器に実装されると予測されています。資産追跡やオフィス再開のためのソリューションの認知度の向上により、Bluetooth位置情報サービスへの関心が高まりました。

Bluetooth位置情報サービスはその他、スマートホームやスマートビルディング、自動車などで活用されるデジタルキーにおいても大きな役割を担っています。Bluetoothは100%のスマートフォンに搭載されており、Bluetooth技術が家の玄関やオフィスのエントランスなどへのセキュアなアクセスを確立することでスマートフォンがデジタルキーになるのです。

今回、Alps Alpineの高井 大輔 氏にお話を伺い、同社がBluetooth技術を活用しどのようにセキュアな自動車向けキーレスエントリー ソリューションを開発したのかお答え頂きました。加えて、Bluetooth技術の信頼性、高い精度、通信距離がどのようにセキュアなデジタルキー開発の要件に合致しているのかについてもご説明頂きました。

  • Bluetooth技術を貴社のキーレスエントリソリューション、アクセス制御ソリューション(車体の位置測位、デジタルキー、パッシブエントリなど)に採用された理由についてお聞かせください。 

 車載機器において、スマートフォンを核としたデジタルキーなどによるMaaS(Mobility as a service)の実現には、個人認証に加え、対象装置の位置特定は欠かせない技術となっています。一方、これまでの位置測位にはバーコードやICタグなどによる物理的なスキャニング行為や、GPSやWi-Fi®などを利用した高価なシステム構築が必要になるなど、実用性や開発リソース負荷などさまざまな課題がありました。 また、従来の自動車向けキーレスエントリシステムで使われるパッシブエントリではLF(Low Frequency)を用いた位置測位技術が使われています。これら機能をスマートフォンに搭載することは難しく、スマートフォンに搭載できる通信規格での位置測位技術、および当該システムに欠かせないアンテナの小型化が必要となります。

  Alps Alpineでは、Bluetooth®チップを利用した高精度位置測位技術の開発を進めており、この課題に対して大きく改善を期待できると考えています。また、Bluetoothは多くの市場で活用されており、豊富な市場実績があることからBluetooth®を活用したシステムの開発を進めています。 

  • 貴社の自動車業界におけるキーレスエントリソリューションについて詳細をお聞かせください。Bluetooth技術はどのように市場のニーズを満たしていますか。

近年、自動車のメガトレンドである「シェアリング」により、スマートフォン自体がキーの役割を果たすようになる「スマートカーアクセス」が主流、且つ、必須な機能と位置付けられようとしています。そんな中でBluetooth® は、NFCに比べて長い通信距離を誇り、Bluetooth® を活用することで、端末をかざすことなくセキュア認証が行えるようになります。ただ、その一方でBluetooth® は10m以上無線が届くこともあり、通信が確立されただけでドアを解錠できたり、エンジンを始動できたりする為、昨今、社会問題化しているリレーアタックのように、簡単に車両を盗まれてしまう可能性も危惧されています。 この将来的な課題に対してAlps AlpineではBluetooth® を用いた位置特定する技術(測距および測位ソリューション)により、セキュリティ性を十分担保し、お客様が安心して使用できる「スマートカーアクセス」の開発を進めています。

  • キーレスエントリのデジタルキーとして、スマートフォンを用いる優位性についてお聞かせください。

自動車、自家、会社、事務所、実家のキーなど、たくさんの鍵を持っていると、使用する時に、どれがどれだかわからなくなり混乱をきたしてしまいます。 そのような多くの鍵をスマートフォンで管理できるようになれば、所持する鍵の数を減らせるだけではなく、非常に便利になることが予測されます。 例えば、ワンタイムキー設定によるキーシェアへの展開や、スマートフォンが自動車の情報と連動することにより、車検の時期、ガソリンの残量、タイヤの残溝、空気圧等自動車に乗っていなくともスマートフォンで確認ができるようになり、使用者にとっての利便性が大幅に向上します。ただし、利便性が向上する一方で、ますますスマートフォンの重要性やセキュリティ性などの責任が大きくなり、前述の様な高度なセキュリティ性の担保は必須と言えますし、更には紛失しないような手だてを構築する必要があるとも言えます。

  • セキュアな測距ソリューション(Cockpit/ Walkupなど)の必要条件は何だとお考えですか。また、それらのセキュリティは安全でしょうか。

通信システムにはセキュリティは欠かせない機能と考えています。Alps Alpineでは測距システムにおいてもセキュリティは重要な機能と考えており、開発を進めております。但し、システムとしてのセキュリティの安全性を考えた時には、測距実施時以外の想定しないアタッキングが開発されることも考えられ、自動車という高額商品が家の外に置かれている状況を鑑みた場合、キーレスエントリでのセキュリティ性を確保するのと併せて、多様なアタックに対応する他のセキュリティ機能を実装する必要があると考えます。

  • 測位技術であるPassive AoAおよびToA-FOBの技術にどのようにBluetoothを活用していますか。Bluetoothは測位の精度にどのように関わっていますか。

Passive AoAは、対向機として既存のスマートフォンなどを想定して開発を進めております。対向機であるスマートフォンから送信されるBluetoothの信号を受信し電波到来角度を算出することで、対向機の位置を測定することを可能にしております。

また、Alps Alpineの高精度位置測位技術は、傘下企業が独自に開発した位置検出アルゴリズムを採用しており、電波到来角度(AoA: Angle of Arrival)/伝搬時間(ToA: Time of Arrival)の同時測定が可能なことにより、高精度な測位が可能なシステムを開発しております。

また、位置測位には多くの市場で導入実績のあるBluetooth®チップを使用しているため単一チップで測位と既存スマートフォンとの通信を実現することが可能です。このことは、既存システムとの通信を容易にすることになり、社会実装性に優れたシステムと言えると考えております。

  • (UWBなどの)他のワイヤレス技術ではなくBluetooth技術を選択した理由についてお聞かせください。

現在、キーレスエントリに用いられるワイヤレス技術として、NFC, UWBそしてBluetooth® が上げられます。その中でスマートフォンのバッテリーが切れた場合でも認証が行えるNFCは、スマートアクセスを実現する上で有意な技術ではありますが、通信距離の短いNFCはかざすという動作が必要であり利便性に劣ると言えます。

 一方、UWBは、狭いパルスを用いたインパルス信号を用いるため、マルチパス信号の影響に対して、干渉しにくい特長を持ち、また、±10cmの測距精度によりスマートアクセスでのリレーアタックに有効な技術と言えます。 ただし、UWBは既存のスマートフォンには採用されておりません。

 Bluetooth® は数メートルというNFCに比べて長い通信距離を誇り、前述の高精度な測距技術の適用により高度なセキュリティ性を確保した通信が可能となります。 また、消費者に対して知名度もあり、スマートフォンには100%搭載されている技術であることから、車載メーカー様からも信頼を得られている技術であると言えます。このことやBluetooth® の相互運用性の点と、今後の拡大の可能性が期待できる事から、Alps AlpineではBluetooth®を用いた測位技術の開発をしました。

  • Bluetooth技術は将来の自動車業界におけるキーレスエントリやデジタルキーにおいてどのような役割を担っていくと思われますか。

自動車業界では、近距離無線接続に関して独自のワイヤレス技術からBluetooth®などの標準化された技術へと移行する動きが顕著であり、 Bluetooth®が標準的に搭載されるスマートフォンは急速に車載システムの一部になりつつあります。そのような状況下、自動車で利用されるワイヤレス技術を用いたアプリケーションでは以下のような技術的な要件が要求されています。

  • 通信における高い信頼性があること
  • 通信の遅延が短いこと
  • 動作時の通信電力が極めて低いこと

上記必要要件を満たすBluetooth®は、車載用途での標準的なワイヤレスシステムとして採用が拡大され、コモナリティ化していくことは必然と考えられます。

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